1998年初出の作品。
舞台は徳島県、吉野川可動堰問題を扱っている。
2007年にTBSで映像化。
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あらすじ
四国八十八カ寺の取材で徳島を訪れた浅見光彦。
第五番「地蔵寺」の本堂の裏手にある五百羅漢で
出会った女性をモデルに写真を取り名前を聞いた。
女性は今尾賀絵と名乗った。
脇町の図書館に勤めているという。
祖谷渓を訪れ取材する中、迷宮入り直前の
殺人事件の存在を知り興味を抱く光彦。
翌日、脇町の図書館を訪ね賀絵に会うが
別人でめんくらってしまう。
光彦が会ったのは妹の芙美だった。
芙美は伝統の染め物の仕事をしていた。
ルポライターの仕事と過去の殺人を調べているうちに
光彦は住民を賛否で二分する
吉野川可動堰建設問題に直面していく。
そして、新たな殺人事件が起きた。
被害者は過去の殺人事件と関わりのある人物。
調べを進めていくうちに光彦は
川に翻弄された女たちの悲しい運命に
気づいてしまう――という話。
感想
作品が出たのは1998年。
当時は全国で公共事業に対する疑惑の目が
強まったころで、翌年には可動堰をめぐる
住民投票が徳島市で可決された。
2000年に行われた住民投票の結果は
反対が圧倒的多数を占め、以後可動堰を
推進しようとする候補は当選していない。
こういった情勢の真っただ中で刊行された
作品だっただけに、どういう内容なのか
注目が集まったと思われるが実にバランスよく描かれている。
また、吉野川可動堰問題がバックにありながら
本筋は男と女の哀しい物語がメイン。
ある意味、浅見光彦の存在は「狂言回し」で
それがこのシリーズのいいところでもある。
これまで浅見光彦というキャラクターは物足りなく
金持ちのボンボンが兄貴の権力利用してるだけやんけと
思っていたが(今でも思ってるけど)
こうしたキャラクター設定があるからこそ
受け入れられる話の作り方もあるのだなと勉強になった。
自分を投影した主人公を創出するだけが
大事なのではないということ。
映像化された際は、遠野凪子、今村恵子、
若林豪などがゲスト。
賀絵は図書館ではなく大谷焼の職人。
徳島へは光彦だけではなく母も行くなど
いろいろ変更がある。
現実にどれだけの影響を与えたかは不明だが
とにもかくにも吉野川の自然は守られることになった。
作品の力というのもまだまだ捨てたものではない。