1965年初出の作品。
その時のタイトルは「穽」だったが1975年刊行時に「裏切りの明日」に変更。
1975年に原田芳雄主演で連ドラ化、
1990年に工藤栄一監督・萩原健一主演でVシネ化。
Auto Amazon Links: プロダクトが見つかりません。
日本における警察小説のはしりの1つといえる本作。
悪徳警察官が主人公というのは当時としてはタブー的設定であった。
刑事が主人公の犯罪小説ともいえる。
主人公沢井は警察官になった時から悪事に手を染めていたわけでなく、
どちらかといえば昔気質の刑事で一本気で悪を憎んできた人物だった。
いったい何が彼を変えたのか。
それは結婚を考えていた女から
貧乏は嫌いだと別れを告げられたことがきっかけだった。
このあたりの描写が素晴らしい。
夢も希望もなくしただ欲望のみの人物になる沢井。
しかし、常に満たされない思いがある。
なまじ警察権力という力を身につけているため、よりいっそうその歪みが拡大していく。
沢井は中小企業の乗っ取りを巡る暗闘に首を突っ込む羽目になり、
これを利用して自分も金を稼ごうと策略していくのだが、その目論見は果たせなくなる。
堕落していく刑事。
しかし、著者もあとがきで書いているがこの主人公を憎むことはできない。
誰もが同じような状況に置かれたら
こうなるんじゃないかなと思えるからだ。
そんな堕落していく刑事・沢井だが、彼が見せる男の矜持というものもある。
親の会社を潰され復讐に燃える男・阿久津が
沢井を買収しようとするシーンの描写が素晴らしい。
「金で人間を買うことはできる。
自分を売りたい奴が大勢いて、相手しだいでは簡単だろう。
だが、いつも同じ手で買えると思ったら大間違いだ。
あんたはわたしを見損なった。
脅迫されたら逆の方へ動きたくなる男がいるということを知らなかった」
この前後の描写がうまい。
沢井はついに白い歯を見せた、とか。
滅びの美学を余すところなく描いた傑作。やはり結城昌治の文章はうまい。
読んでてこの人上手だなあと思うのは結城昌治、土屋隆夫、藤原伊織の3人。