1983年出版の冒険小説。
デビュー作「飢えて狼」の次の作品。
このあと「背いて故郷」が出て
いわゆるシミタツ節が有名となっていく。
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あらすじ
船会社を経営している長尾。
老朽貨物船が一隻だけの零細企業だが、
その船が大隅海峡沖で忽然と姿を消してしまう。
船には長尾の弟・文治も乗っており、
乗組員6人とともに遭難していた。
遺族への弔問と謝罪の旅を続けていた長尾は、
最後となる榊原の出身地である大隅半島の漁村に。
ところが、その長尾を暴力団が襲う。
二年前、横浜で長尾にからみ逆に殺された二人の報復だった。
難を逃れる長尾だが、執拗な暴力団の攻撃が続く。
なぜ長尾の居所を相手が知ることができたのか。
疑問を持った長尾は事件の際に一緒にいた理恵から
神奈川県警の刑事から長尾の居所を暴力団が突き止めたと聞く。
警察が居場所を知るはずがない。
何かをたくらんでいる第三者の存在を感じる長尾。
船の遭難の真実を探るうちに
長尾は自分たちを押しつぶそうとする闇と対峙することに――という話。
感想
後半のたたみかける感じが素晴らしい。
己と国家のあり方についてのセリフが深い。
理不尽を生み出す仕組みは残念ながら今も変わることはない。
仕組みは疲弊しながらも手を変え品を変え続いている。
東京五輪後の状況に漠然と不安を抱えながら
東京五輪までは何とかなるのではというわずかな希望も
マラソン競技が一方的な理屈で東京から札幌に変更され
ラグビーワールドカップの成功はどこへやら一気に不安要素が広がっている。
有名なラスト3行は
「天に星。地に憎悪。南溟。八月。わたしの死」が最初の文章だった。
後に「わたしの死」が「わたしは死んだ」になるわけだが、
どちらも味わい深く甲乙つけがたい。
このあたりは好みでしょうな。
長尾と理恵の関係、ともに戦う元海軍一等兵曹・花岡康四郎。
キャラクター造形が素晴らしい。おすすめの冒険小説。