1964年出版の初長編。
東京の下町工場を舞台に、耳の聞こえない青年の
「声なき叫び」を描いた今なお今日性を持つ社会派ミステリの傑作。
1965年に「この声なき叫び」のタイトルで
松竹が映画化、主演は田村正和だった。
1982年には火曜サスペンス劇場で
「影なき殺意」のタイトルでドラマ化。
泉ピン子、国広富之らが出演。
2001年には「女と愛とミステリー」枠でドラマ化。
かたせ梨乃、高橋かおり、河相我聞らが出演。
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あらすじ
東京の下町工場で働いている聾者の青年・晋一。
彼は病身の母・辰子と二人で細々と暮らしていた。
仲間とコミュニケーションがうまく取れず
孤立しがちな晋一を温かく見守るのは
近所のバーで働く幸子だけだった。
ところがある日、晋一が辰子のために買ってきた
栄養剤を飲んだせいで、辰子が死んでしまう。
栄養剤にはヒ素が混入されていた。
逮捕された晋一の無実を信じ、
幸子はある提案を晋一にするのだが
それが更なる悲劇を招くことに――という話。
感想
久々に読んでもやっぱり暗すぎる話。
でも、ところどころの文章の素晴らしさは
いまだに色あせることはなく、今日ますます重要なものだ。
貧困な聾唖者教育の現状の告発というテーマを
正面に掲げていることはよく知られているところ。
ろう学校の先生が新聞記者に語る言葉は
不寛容社会と呼ばれる今日においても強く響く。
「わたしがお願いしたいのは、
彼らの耳に聞こえなかったからといって、
責めたり、弱すぎると、非難しないで頂きたいということです」
どうですか、これ。十分通用するでしょ。
もっとも梅田のど真ん中を電動車いすで
周囲に喚き散らしながら走っていくモラルのかけらもない
人間をまのあたりにすると「なんだかなあ」と思うのだが。
世の中、進歩するって難しい。
だから、社会派であることをやめたのかな、著者も。