「問題小説」に1971年から1974年にかけて
連載された7つの短編を収録したもの。
「夕映えに明日は消えた」は東宝で映画化されたが
内容が暗すぎるということで未公開となっている。
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内容は何らかの事情を抱えた初老(といっても30代半ばとかだが)
渡世人としてはもう若くない連中が一話一話で死んでいく。
なんともまあ物悲しい感じの話ばかりなのだが、カタルシスはある。
さらにミステリ仕立てになっているものも多く飽きさせない。
「夕映えに明日は消えた」
胡瓜を盗んで村人に捕まった渡世人の佐吉。
ぼこぼこにされたあげく日照り続き解消の人身御供にされかける。
一人頭の弱い小夜だけが佐吉に水をくれたりする。
そこにかつて村人に父親を殺され村を追われた仙太郎が
兄弟とともに帰ってきて村人を殺し始める。
村人たちは佐吉に非礼をわび、助けを求める。
佐吉はこれ幸いとばかりに峠を越え逃げる算段をする。
しかし、それに気づく小夜が佐吉の後を追いかける。
小夜が仙太郎の兄弟に手籠めにされようとするのを見た佐吉は小夜を助ける。
銃弾を浴びながら仙太郎と刺し違えた佐吉は、
小夜が呼びかけるなか絶命する。
まあ確かに暗い。しかし未公開にせんでもええのにね。
「夕映えはあの日も見た」
道端で死にかけていた渡世人、喜三郎。
道行く人は怖がって誰も相手にしない。
唯一、いいとこのお嬢さんが爺のいうことも聞かず
喜三郎に薬と食物を与えてくれた。
「身体を労わるんですよ」
その日から命知らずの喜三郎は人が変わったようになった。
命を大事にするようになったのだ。
それを腑抜けと称するものもいた。
ある日の帰り道、喜三郎は道端でもがく男を見つける。
それはあの日の爺だった。
相手は気づいていないがお嬢様を助けてくれという。
喜三郎が駆けつけるとすでにお嬢さんは犯されていた。
コトが終わって満足している男をお嬢さんは
近くにあった脇差で股間を貫き絶命させる。
それを見つめる喜三郎。
そこに地元の代貸たちがかけつける。
お嬢さんが叫ぶ。
「殺したのはあの男です。私、見てました!」
喜三郎は黙ってかけつけた男たちと切り結ぶ。
全員を叩き切る喜三郎だったが自分も深手を負う。
「身体を労わらなくてはって……そう言ったじゃあござんせんか」
女は怖い。
「夕映えに涙が笑った」
親分に利用される男の悲しい話。
人の善意には気を付けよう。
「夕映えの道は遠かった」
男の美学。生きている張りを感じることは大切だねえ。
「夕映えが過去を染めた」
ミステリ仕立て。ラストのどんでん返し。
幼馴染の女のために命を落とす渡世人。
昔に関わりを持つ者と持たない者との対比。うまい。
「夕映えに命を売った」
これまたミステリ仕立て。やはり女は怖い。
「夕映えに狼が死んだ」
これが一番のどんでん返し。うまい。
一回読んだだけではわからなかったから巻き戻しで読む感じ。
どの短編もうまい。それぞれに味がある。
連ドラでやりゃいいのにねえ。まあ無理か。