1985年初出の短編集で昔の作品を収録。
「午後の脅迫者」「密告」「二一・00時に殺せ」
「美談崩れ」「柴田巡査の奇妙なアルバイト」
「私は職業婦人」「オーストラリアの蝉」「成功報酬百万円」「マルチ商法」の9本。
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午後の脅迫者・・・「小説現代」1972年1月号。
因果応報という言葉がピッタリの作品。
恐喝で捕まった探偵事務所所員の新聞記事を見て
自分ならもっとうまくやれると考え調査員になった男が、
うまく脅迫のネタをつかみしめしめと思ったが――という話。
「密告」・・・「小説現代」1976年6月号。
そんなに数は多くないが佐々木刑事シリーズの1作。
フジの佐々木丈太郎シリーズで2011年に映像化。
姿なき愛人のどんでん返しがポイント。
「二一・〇〇時に殺せ」・・・「別冊問題小説」1976年7月号。
これまた佐々木刑事シリーズ。
フジのシリーズ第1作で2009年に映像化。
佐々木の相棒、安田刑事が見合いにいったはずのホテルで妙な電話を聞いた。
「間違いなく二一・〇〇に殺せ」と。
電話をしていたのは悪徳弁護士。
調査すると翌日公判を控えた事件の証人が狙われているとわかる。
佐々木と安田は証人を守ろうとするが、安田が凶弾に倒れ――。
これはうまい。二転三転する展開が素晴らしい。
「美談崩れ」・・・「オール読物」1965年9月号。
ある地方の支局に飛ばされた新聞記者・高木。
目立った事件もなく、記者クラブで麻雀をしていると交通事故の知らせが。
しかし、高木はその裏にあるものを執拗に
追求しようとするのだがそれが裏目に――。
これもある意味、因果応報的な作品。
「柴田巡査の奇妙なアルバイト」・・・「小説現代」1977年4月号。
柴田巡査はさえない男で、妻とも不仲。
だが、年末だけは彼の成績は少し良くなる。
それは誰にも言えない「ちょっとした慈善事業」だった――。
隠れた名作。かつて傑作推理劇場で映像化。
エラリー・クイーン選集にもあったような。記憶が定かでないが。
これまた因果応報というか、策士、策に溺れるというか。
切れ味抜群の短編。
「私は職業婦人」・・・「小説現代」1978年10月号。
隣家の奥さんが死体を庭に埋めていると投書が。
警察が捜査したところ、なんと3人の遺体が発見。
裁判となったが被告は国選弁護人を拒否。
しかも検察は2人の殺人認定しかしていないのに
自分から3人を殺害したと法廷で語る。
さらに弁護人も自分で兼ねている彼女は
検察官と裁判官を証言台に立たせようとする――。
捻りのきいた短編。
「オーストラリアの蝉」・・・「小説推理」1979年3月号。
若い女がマンションの一室で殺害される。
被害者の部屋には冬だというのに蝉が落ちていた。
単独行動をとった刑事が殺され、事件は混迷を深める――。
終わり方がハードボイルドで珍しい作品。
「成功報酬百万円」・・・「ルパン」1981年1月号。
尾行するだけで成功報酬百万円と同僚に聞いた
探偵事務所の男は喜んでそれを実行するが
殺害犯人に仕立てられてしまう――という話。
「うまい話には気をつけろ」を地で行く短編。
「マルチ商法」は短すぎて特に言うことなし。
まあこの中で秀逸なのは「二一・〇〇に殺せ」と
「柴田巡査の奇妙なアルバイト」かな。
トラベルミステリーの長編ばかりが目立つ著者だが
実は短編もものすごくうまいんだよねえ。
それを堪能できる一冊。