鮎川哲也の名作「黒い白鳥」を久々に読む

1959年7月から12月まで「宝石」に連載され、
1960年に初刊行、第13回日本探偵作家クラブ賞受賞作品。

安保闘争前夜の騒然とした時代の空気を反映してか
労働争議に揺れる会社の社長が殺される展開。

おなじみ鬼貫警部の推理が冴える。


あらすじ

線路沿いで男性の屍体が見つかった。
被害者は紡績会社のワンマン社長、死因は銃殺。

疑いの目は労働争議でストライキ中の
労働組合委員長・副委員長に向けられるが鉄壁のアリバイ。

次に金で繋がる新興宗教がらみの容疑者が浮上するも
何者かによって殺害され、捜査は難航する。

捜査員として加わった鬼貫警部は記録を丹念に読み返し
京都・大阪・九州と捜査を続ける。

そこで得たものとは。果たして犯人は誰か――という話。


感想

本格推理の巨匠・鮎川哲也の記念碑的傑作。

50年以上前の作品だろうがなんだろうが
ちっとも古びない面白さが随所にある。

例のごとく鬼貫がなかなかでてこないのがもどかしいが
まあそういうのもありだろう。警部ったって名探偵みたいなもんだ。

京都・大阪・九州と捜査する中での地域の描写に
当時の社会状況を感じることができる。

今ならすぐ新幹線に乗ればいいものを
夜行で移動するまでどうやって時間を潰そうかとか。

ある意味のんびりしていたものだ。

串カツ4円! すし一皿20円! さすがジャンジャン横丁。

もうそんな呼び名もあまり聞かないような。


犯人の動機は同時期の松本清張「ゼロの焦点」に類似するが
それだけ当時は身近な関心事だったということである。

戦争が終わって価値観がひっくり返り激動の荒波の中で
人生が変わっていってしまう――

といっても現代は戦争こそないが、モラルはどっかにいっちゃって
先行き不安通り越してその場をどう凌いでいくかに汲々としている時代。

「温故知新」というが推理小説黄金期のこの時代の作品から
学ぶことはまだまだあるのではないだろうか。

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