1988年初版の長編ミステリ。
伊藤左千夫『野菊の墓』に絡んだ仕掛けが面白い。
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あらすじ
東邦新聞社会部に匿名の電話が入った。
自殺とみられた水死体が実は殺人だというのだ。
社会部記者・瀬沼は他の事件で忙しい中、徐々にその電話に興味を持つ。
一方、文芸部勤務のベテラン・牧田も匿名の投書に関心が湧く。
伊藤左千夫『野菊の墓』にはある秘密があるというのだ。
奇しくも2つの匿名の繋がりには北峰瞳子という謎の人物が。
調べていくうちに瞳子は10年前に亡くなっていたことが判明。
そして事件に繋がる形で2つの連続殺人が巻き起こる――という話。
感想
一種の歴史ミステリというか文芸ミステリというか。
ひと頃こういう系統の作品は結構あったような気がする。
例えば高橋克彦さんの『写楽殺人事件』とか
井沢元彦さんの「猿丸幻視行」とか。
どっちも乱歩賞受賞作だな。
厳密にいえば違うのかもしれんがイメージ的にはそんな感じ。
『野菊の墓』といえば松田聖子が出た映画かなあ、リアルタイムでいえば。
世間的には木下恵介監督の『野菊の如き君なりき』だろうけどね。
あの丸い映像のやつ。
丸いって言い方はおかしいか。
要は回想シーンを楕円形にしてアルバム風にしてるんだよね、確か。
で、その『野菊の墓』に関する部分と
殺人事件が絡んでくる部分があるわけだが、このあたりが興味深い。
誰が犯人なんだろ?と読ませてくれるし。
鉄壁のアリバイ崩しもなるほどなあと。そういう手もあるわなと。
ま、もう一つの方の謎は比較的簡単にわかるのだが。
それはそれで読後感が爽やかでいいんじゃないかと。
記者のキャラはどっちか一人メインであればいいような。
歳とってきたせいか、牧田の方に感情移入してしまうけど。
こういうのは昔でいえば長門裕之さんがやると抜群に似合う気がする。
ストーリー的にも牧田メインな気がするし。
そっちで押して、犯人の魅力を上げればもっと面白いような。
犯人がもひとつパッとしないというか
主人公が推理に困ることはあっても危機に陥ることがないから
起伏が少ないというか平坦な感じで進んでいく印象を受けるのよね。
でもこういう系統のものは一度はやってみたい。