初期に書かれた歴史短編集。
表題作のほか、「願望」「奉公人組」「乱気」「雀一羽」
「疑惑」「西蓮寺の参詣人」「贋札つくり」「明治金沢事件」の計9編を収録。
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あらすじ(増上寺刃傷)
三代将軍家光の死去に伴い、殉死した幕閣は10人を超えた。
そんなルールはどこにもありはしないのだが、
大恩を受けて出世しておいて何事かという世間体がそうさせてたのである。
ところがいつの世にもそんなもんたまったもんではないと考える人がいるもので。
当たり前といえば当たり前の話なのだが、常識も時とともに変わるものだ。
とにかく殉死せずに出家した重臣がいた。永井信濃守尚政。
僧になった方が見た目は世俗を離れて生きられるというもの。
ま、本人はそれでいいかもしれんが周囲の者はそうはいかない。
子どもが若くして亡くなっていたので孫が後を継いだ。
しかし、この孫が吉原で死んじゃった。
腹上死かどうかは知らんが、とにかく吉原で死んでどうするおいおい状態。
そういやそんな相撲取りもいたような。
とにかく前代未聞の醜態には違いない。
そんな身内を持つ永井尚長は頭の切れよく出世するが、
この二人の在り方によって自分は嘲笑されているのではないかと気になり、
攻撃的というか傲慢というかそういう振る舞いをするしかなかった男。
何とも哀れではあるが、その振る舞いのために悲劇を招く――という話。
感想
9編もあってどれもこれも人の哀れさというか身に染みるお話。
否応なしに周囲の影響が出てくるのは今も昔も変わりませんな。
「雀一羽」なんてのは殊のほか哀れで、
生類憐みの令のために一生を棒に振ってしまう武士の話。
最後は乱心してしまうわけだが、たまらんのは周囲ですわな。
まあでも、現代でもそういうのはあるわけで。
管理社会の中、メンタルいかれるってことは増加傾向でもあるし。
生きる時代を選べるわけではないが、今を大事にせんとなあって思いますねえ。