1960年1月号から2年にわたり
「オール読物」に連載された推理小説。
1975年に映画化、テレビドラマ化は実に8回を数える名作。
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あらすじ
旅で訪れた奈良の唐招提寺の芳名帳に
外交官だった叔父・野上顕一郎の独特な筆跡に
似た文字を見つけた芦村節子。
大戦末期に某中立国で亡くなった叔父の筆跡がなぜ?
節子はそのことを身内に話すも、誰も取り合ってはくれない。
ただ野上の娘・久美子の恋人で新聞記者の添田を除いては――。
添田は野上の生存を確かめるため、秘かに調査を始める。
だが、当時の関係者は一様に口を閉ざし
ついには不可思議な連続殺人まで起きてしまう。
事件の背後にはいったい何が隠されているのか?
添田は真実に一歩ずつ近づいていくが――という話。
感想
1960年といえば安保闘争で空前の大騒ぎの時代。
そんな中、松本清張は生涯において最高ともいえる
名作を次々と生み出した一年を送ることとなった。
この年に連載が開始されたのは「文藝春秋」で「日本の黒い霧」、
「オール読物」で本作、「週刊新潮」では「わるいやつら」、
読売新聞で「砂の器」、その他サンデー毎日で短編「駅路」と
今日においても根強い人気を誇る作品、そして映像化になっても
より魅力的な世界を示してくれたものばかりとなっている。
この作品のいいところはいろいろあるけど
まず芳名帳の筆跡の手掛かりがいい。
そんなに特徴のある文字なんだねえ、この手本のやつって。
それから「日本の黒い霧」や「小説 帝銀事件」のような
ノンフィクション的な展開にしなかったこともよかった。
事件の謎を手繰る手法が得意なのに。
あくまでメインは父と娘、失われた家族への思いである。
さらにいえば不当なものへの静かな怒りも含まれている。
ラストが情感豊かで素晴らしい。
これまで読んだ松本清張の中で一番かも。
こういうの書きたいなあ。
映像化が多いのも納得だが、こういうのに限ってちゃんと観てない。
今度じっくり見比べてみよ。
追記
1981年火曜サスペンス劇場の第1作目として映像化。
出演は映画でも久美子を演じた島田陽子。
三船敏郎、中村雅俊、香川京子、西村晃、柳生博など豪華。
前半はまあまあいいと思うんだけど、後半がちょっとなあ。