1964年から1年あまり小説新潮に連載された。
タイトルの「溺れ谷」とは、かつて谷であった場所が
海面上昇などの現象により入り江になった場所を指す言葉。
要するに水面の下にはかつて陸であった複雑な地形が隠されている。
なかなか見通すことができないのを利権の構図に例えているわけ。
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あらすじ
三流経済紙の記者・大屋。
彼の仕事は企業の提灯記事を書き広告料を取る仕事。
いわゆる「トリ屋」である。
彼は砂糖業界の風雲児・亜細亜製糖社長の古川に
往年の映画スター・竜田香具子を斡旋しコネをつけようとする。
ところが古川はそれを利用して現職農林大臣・是枝との
関係を強化しようとする。
かつて疑獄事件を起こし自殺者まで出した砂糖業界と
政界の黒い関係を知り始めた大屋の運命は?--という話。
感想
これはめちゃくちゃ面白い。
まさに社会派ミステリという内容。
トリ屋っていうのは昔からある仕事なんだねえ。
自分も似たようなことやってるから共感するところがある。
もっともこんなに大掛かりでもなければ
提灯記事を書いているつもりもないのだが。
魑魅魍魎、権謀術数の限りを尽くす大企業と政治家。
そして謎の元官僚の存在。
最後の方はどんでん返しもいいとこ。
殺人が起きなくても面白いミステリは書けるいいお手本。
名の通った作品ばかり目が行きがちだが
実はそれ以外に面白い作品たくさんあるんだよねえ。
1983年に土曜ワイド劇場でドラマ化。
近藤正臣、梶芽衣子、佐藤慶を始め
脇役に至るまで豪華メンバーの3時間スペシャル。
なかなかの出来栄えだし、サスペンスにはフィルムが似合う。
ラストの登場人物のその後なんてのも皮肉が効いてていい。
やはり松本清張は凄いとあらためて感じる一冊。