1971年出版の作品。
最初に読んだ時はそのストレートさに引いた部分もあったが
今読むといろいろ示唆に富んだ内容。
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あらすじ
公害問題で揺れる伊豆で17歳の少女が入水自殺。
その少女から救いを求める手紙を受け取りながら、後回しにしていた
弁護士の中原は罪の意識を感じ公害問題に取り組もうとする。
しかし、目先の利益に走る巨大企業の前には無力。
友人の新聞記者、地元で地道に調査を行ってきた高校教師など
心の通じるものを集め立ち向かおうとするが、公害はないという
お墨付きを与えたい政府は調査団を送り込む。
しかし、その調査団長が他殺体で発見され事態はますます混迷に――という話。
感想
どストレートな直球勝負。
ただ普通に生きていきたいと願う人の心を土足で踏みつぶそうとする
ものたちへの怒りが込められている。
そのストレートさに最初読んだ時は堅苦しさというか柔軟性がないように
思えたのだが、久々に読んでみるとそうでもない。
むしろ「正しく戦うことの意識」というかそういうものが見られる。
例えば高校教師が途中で調査団長の殺人嫌疑で不当逮捕されるのだが、
その時に高校生たちが署に押し掛けたり、感情的になることは
事件の解決を遅らせ本質的な部分を隠すようなもので相手を利する
行為にしかならないことをさりげなく喝破している。
また、公害があると証明されたら魚が売れないため味方をしてくれない
地元漁師たちに対しても画一的な見方は決してしない。
ラストは大きな収入源のエビが全滅したからこそ漁師たちは立ちあがるのだが
それは真実に目覚めたからではなく、彼らのエゴイズムがそうさせたのだ。
「正義感ではなく、漁民のエゴイズムだ」
そう中原は感動したわけではなく声に出して言うのだが
この時の高校教師・吉川の反応が素晴らしい。
「だからこそ、彼等を信頼できるんです」
微笑みながら彼がそう言うところで小説は終わる。
ここの部分はよくできたラストでまるで映画みたいな感じ。
様々な示唆に富んでいてなるほど人間の描き方というのは
こうでなければならないと改めて教えられた。
いい小説は何度でも読まんとあかんねえ。