1961年から1962年にかけて読売新聞に連載された小説。
ミステリーというより社会小説?みたいなもの。
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あらすじ
島地章吾は日本史教科書編集の分野で著名な助教授。
しかし、仕事より変わり身の早さと女癖の悪さで名を知られていた。
ライバルの歴史学者細貝の妻、景子に興味を持ち
細貝が急逝したのをいいことに愛人にする始末。
その一方、学生時代の友人佐野の妻、明子にも迫る。
教科書編集の分野では権力者なので
販売を伸ばしたい教科書出版社は島地の言うことを聞くしかない。
というより目いっぱい利用しているといった方がいいかも。
そんなこんなで島地は己の欲望のままに
肩で風切って人生を満喫しているのだが当然落とし穴が待っている–という話。
感想
教科書出版社の売り込み競争を通じ人間の本音に迫った作品。
教師は教科書を採択する代わりに出張という名の東京見物の費用を出させようとするし
ダム工事に際してボスは愛人に金使いこみたいから自然を守るの名のもとに補償金を釣り上げようとするし
地元の新聞記者は話をまとめてやるから賄賂をよこせという。
いやはや人間の「金銭欲」「名誉欲」「肉欲」というものは
避けようがないというかどうしようもないものである。
島地助教授という人間は観方によってはとんでもない人間なのだが、なぜだか共感する部分もある。
いってみりゃ「白い巨塔」財前五郎の教科書版みたいなものだ。
そこまでいいものではないけれど。
戦前は大政翼賛会、戦後は進歩派、少し時代が変わると時流に乗って中立派となる島地。
同業者からは非難の対象にしかならないのだが非難というよりただの嫉妬な部分も多い。
そういう人間に限って細貝が死んでも香典1つ満足に出そうとしない。
いろんな人間の心の闇を描いた知られていない傑作。こういうの映像化すりゃいいのにねえ。