西村京太郎3・初期の傑作「D機関情報」を久々に読む

1966年出版の作品。
天使の傷痕」で乱歩賞受賞後の一作目。
1988年に「アナザーウェイ D機関情報」として映画化。

あらすじ

若き海軍中佐関谷は、突然軍令部に呼び出され密命を受ける。
火薬の製造や医薬品にも使える水銀の買い付けだ。

関谷は百キロの金塊が入った
トランクと共に伊206潜水艦でドイツに。
不承不承ながら密命を引き受けたのは
協力してくれるドイツ駐在武官の矢部が
海軍兵学校の動機で無二の親友だったからだ。

ところが、ドイツに到着した関谷を待っていたのは
矢部が事故死したという知らせだった。
聞けば休暇で訪れたスイスで溺死したのだという。

この戦時中に休暇でスイス?
しかも酔って湖に落ちた?

疑問を感じながらイギリス軍の激しい空爆の中、関谷はスイスへ向かう。
しかし、あと一歩のところで車が炎上。
そこへ通りかかるハンクと名乗るドイツ情報局員。
無事に国境の町シャフハウゼンに着くが
自称フランス人とアメリカ人の男女が同乗することに。
車の故障を装い、ハンクが関谷に告げた。

「この男はソ連の諜報機関員だ」

関谷は各国のスパイが暗躍する中立国スイスに来たことを思い知るのである。

4人を乗せた車はベルンを目指して走り出す。
背後には尾行と思しき車の影が。
振り切ろうとハンクがスピードを上げたその時、空爆が彼らを襲う。

世に言う「シャウハウゼンの悲劇」、
アメリカ空軍による誤爆事件に巻き込まれてしまったのだ。
関谷が気を失っている間にトランクと3人の外国人は姿を消す。

金塊の行方を必死で探す関谷はアメリカ女性の居所を突き止める。
しかし、彼女は「D」という言葉を言い残して死んだ。

果たして「D」とは何を意味するのか?
そして関谷の運命は?--という話。


感想

随分前に読んだのだが今読んでも最高に面白い。
著者も自選ベスト3に選ぶほどのスパイ小説。

海軍バリバリの軍人である関谷が、
祖国日本を救おうとし人間的に成長していく青春物語的な要素もある。

誰がどの機関の人間なのか、本物偽物入り乱れての
プロットが秀逸としか言えない面白さ、完成度の高さ。


(ここからはネタばれ的な要素が強いので未読な方はやめといて)

で、ちょっと離れてみると関谷にはモデルがいる。
ちょいと調べりゃわかるのであえて名前は書かない。
小説の中の関谷は祖国日本の無事を祈りながら死んでいくがモデルは戦後も生き残る。

要するに終戦工作に関わったわけだが、その史実には曖昧な部分も多い。
ただ日本に送った電報が無視されたのは確かだ。
で、終戦工作にかかわったモデルは戦後は商社を立ち上げ社長となり防衛産業にも参入している。

・・・あんた、終戦工作に関わったんちゃうの?

また、小説の中でも出てくる終戦工作に関わった新聞記者。
話の中では暗殺されるが、これまたモデルは戦後も生きる。
しかも戦前は国家総動員法や大政翼賛会創設に協力。

・・・なんでそんな人物が終戦工作すんの?

これまた不思議な話ではある。
この2人、戦後はCIAの協力者となっている。
商社がCIA日本支局となったぐらいだ。

安保闘争においては安保改定反対、
岸退陣の論陣を張るも東大女子大生が
機動隊との激突で死亡すると一転して180度内容を変え運動の鎮静化に一役買った。

なんじゃそりゃ、である。

この新聞記者のCIA機密ファイルは
いまだに非公開で他にどのようなことがあったかは不明である。

興味をそそるが恐ろしい話だ。

こうなってくるとホントに終戦工作で
接近してたのかどうかさえ疑わしくなってくる。
実は終戦後の話とかしてたのか?

ちなみにモデルの人物達が終戦工作で
接触していたのがアメリカ戦略情報局
スイス支局で活動していたアレン・ダレス。

後のCIA長官である。

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