1996年出版の異色作。
珍しく一人称で、昭和初期の浅草を舞台に
踊り子連続殺人事件が巻き起こる話。
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あらすじ
時は昭和7年――。
着実に戦争の足音が忍び寄っている時代に
そこから逃避するように流行したエロ・グロ・ナンセンス。
なかでも浅草六区の劇場では
どれだけ刺激的な舞台を提供できるかが
小屋の浮沈のカギを握っていた。
小屋の一つ、偏奇館で3人の踊り子が次々と殺された。
川に浮かび、乳房を切り裂かれ、公園の茂みの中で――。
それぞれの死体には特徴があった。
その都度、葛藤しながら
事件を逆手に取り舞台に取り入れ
劇場は活況を呈したものの、あることから閉館に――。
事件の渦中で妻と出会った私は戦争に駆り出され、
帰国した時には妻も子供も空襲で焼け死んでいた。
失意の私はそれから浅草を訪れたことはなかったが、
事件の真相を確認すべく50年ぶりに浅草を訪れたのだが――という話。
感想
隠れた傑作。
今日読んでも決して色あせることがない内容。
というより時代が現代とよく似ている。
単純な比較ではなく、人々の気持ちという点で。
事件の真相もそうした時代の空気と無関係ではない。
しいていえば結末があっさりし過ぎかな。
真犯人が予想つかないこともないし。
そこ、もうちょっとなんかないの?
と思いながらも長かったらくどくなるかもしれんし
なかなか難しいところ。
これ映像化してくれんかねえ。
実力が評価されながらも売れてない時代に
次の作品は出版社が内容を決めますと言われ、
持って行ったアイデアが浅草の話と寝台特急で
本人は浅草の話をやりたかったけど、
担当者は寝台特急を選び、そこから驀進が始まった。
というエピソードがあったと思うけど、
この作品がその時のアイデアなのかねえ。
確かにいい内容なんだけど、
売れる売れないでいえば難しいかもしれんね。
そういう点では担当編集者の目が合ってたということ。
ものづくりは難しい。