2016年出版の法廷ミステリ短編集。
「証言の森」「脊梁」「一年半待て」
「晩景」「奇妙な被告」の5編を収録。
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あらすじ
「証言の森」はオール讀物1967年8月号発表。
戦前の裁判制度をとある事件を通じて描いた作品。
妻殺しの嫌疑をかけられた夫が一審では無罪になるものの、
二審では有罪になり、大審院で確定してしまう。
ラストが意外性と皮肉に富んでいる作品。
無実の罪で服役したほうが結果的に生き永らえる
可能性のある時代って嫌だねえ。
このあたりの目の付け所がさすが松本清張。
「脊梁」は別冊文藝春秋1963年12月号発表。
川田トモ子は許嫁の村尾宗一と寝た晩、
宗一が寝床を抜け出したことに気付く。
その夜、近所で強盗殺人事件が発生。
宗一は逮捕され、死刑判決が出るがトモ子の証言で
無罪の可能性が出てくるのだが――という話。
証言の重要性と揺れる女心を描いた味のある作品。
1982年、火曜サスペンス劇場でテレビドラマ化。
池上季実子、清水健太郎主演。他に加藤治子、中尾彬など。
これはいいドラマだった。
この頃の池上季実子が一番きれい。
この女性誰だろ、と思ったら城戸真亜子。
セリフ棒読み感が素晴らしい(笑)それがかえってよかった。
「一年半待て」は週刊朝日別冊1957年4月発表。
予想より結構古い作品なんだねえ、意外。
何回ドラマ化しとんねん、って思うぐらい多い。
実に12回を数える名短編。
夫が失業したため、保険の勧誘員として働きだすさと子。
ところが、夫は感謝するどころか酒と女におぼれ、
さと子をどつきまわすDV夫に変身。
思い余って夫を殺したさと子に
夫人評論家の高森たき子が救いの手を差し伸べるのだが――。
「一事不再理」の原則を逆手に取った完全犯罪を描いた作品。
いい出来だよねえ、これは。
1984年火曜サスペンス劇場版は観た。
脚本も持ってるんだよねえ、これ。
小柳ルミ子、樹木希林、勝野洋、高橋長英、東てる美など。
樹木希林さんの高森とき子って抜群だったなあ。似合い過ぎ。
火サスは2002年にもやっていて、
浅野ゆう子、布施博、東幹久、丘みつ子、林隆三など。
観た気もするけど覚えてない。
土曜ワイド劇場は1991年。
多岐川裕美、小川真由美、篠田三郎、本田博太郎など。
何となくイメージが沸くなあ。
TBSは2010年。
夏川結衣、市原悦子、清水美沙、西岡徳馬など。
一番最近のがフジの2016年作品。
菊川怜、石田ひかり、雛形あきこ、ジュディ・オングなど。
観てないからわからんけど、これは女性中心やねえ。
たき子(滝子)は弁護士でこれを演じているのが菊川怜。
まあ、それもありっちゃありかもね。
「晩景」は別冊文藝春秋1964年9月号。
実際にあった裁判がモデルなんだねえ。
牛乳瓶のカバーの掛け方の特許を考えた主人公。
ところが、大手メーカーがそれを突如勝手に使いだす。
口約束で実施料を払うと約束していたのに何事だ、
と主人公は裁判に訴えるのだが――という話。
弁護士も経てず、自分で全てのことをやり
家族からは見放され相手弁護士からは冷笑され。
ずるずると時間をかけて引き延ばされ
消耗していく男の姿が胸を打つ。
こういうの身につまされるんだよなあ。
ずるずるともの書きになれない俺は何なのだろう……
男は一人で戦わなければならんもんなのだ。
「奇妙な被告」はオール讀物1970年10月号。
金貸しの老人が自宅で殺害された。
中華そば屋の男が逮捕され、原島弁護士が国選弁護士を引き受ける。
一見単純な事件に見えたが、男が自供を翻し
事件は意外な方向に進みだし、原島も奮闘するのだが――という話。
これも着眼点が抜群で、普通、自白だけを唯一の証拠として
冤罪が作り出されたりするのだが自白を逆手に取るとこがミソ。
こういう奴おるやろねえ。クズですな。
しかし、ルールだから野放しにされる。
ジャンル別作品集、いいね。他のも読んでみよ。